イジワル御曹司に愛されています
どうしてかその様子は、明るい髪で制服を着崩していた、あのころの彼と重なるところがあって、私は初めて、当時の記憶に細く光が差すのを感じていた。

もしかして、なにかがどこかで、少しだけ違っていたら、あの学校でも、私は彼の、こんな表情を見ることができたのかもしれない。

そんな、うっすらと淡い光。


「──俺んち、ここ」

「え!」


引き続き名ポイント紹介に戻り、そろそろ切り上げないと明日に響くなと思いはじめたところで、いきなり都筑くんがそばのマンションを親指で差した。

10階建てほどの、きれいなマンション。

都筑くんの住んでいるところ、知っちゃったよ…。


「あ、じゃあ、ここで」


せっかく着いたんだし、早く帰りたいだろうと退散しようとしたところ、「おい」と肩をつかまれた。


「そりゃないだろ、途中まで送ってくよ」

「でも」

「もう遅いし、けっこう距離あるし」

「くねくね歩いたからあれだけど、まっすぐ行けば15分くらいだよ」


思ったよりも近かった。

都筑くんも想定外だったらしく「あ、そうなの?」と気の抜けた顔をする。


「でも、送ってくよ、礼も兼ねて」

「じゃあ、来たのと別の道通ってこうか、まだ教えたい場所、あるし」

「お前、もしかして散歩好き?」

「実はけっこう好き」


都筑くんが微笑むと、ちらっと歯が見える。

私たちはまた並んで歩きだした。静かな住宅街、昔ながらの景色が残るエリア、再開発地区。あれこれと自分勝手に案内する私に、都筑くんは「ふうん」と相槌を打ちながら、指さしたほうを見てくれる。

気づけばもう、日付が変わりそうな時刻。誰もいない道を、家に向かって都筑くんと歩く。

我に返ったらなにも話せなくなりそうだったので、勢いに任せてしゃべった。


「ここ入ると、ひょっとしてさっきの公園のあたりに出る?」

「よくわかるね。路地の途中の自販機が、いつもラインナップおかしくて面白いから、チェックしてみて」

「本出せるよ、『寿の街歩き』って」


…もうね、こんな、流れで呼ばれた名前にどきっとするなんて、嘘だよ。

家がもっと遠くてもよかったのに、なんて考えているのも、嘘、嘘。

全部嘘。



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