イジワル御曹司に愛されています
「あんな昔の話」

「いっぱいいたよね?」

「知らねーよ」

「知らないわけないじゃない」

「いちいち数えてねーよって言ってんの、あんなの」

「あんなの!」


最低!

都筑くんはどうあれ、女の子たちのほうは、彼と一緒にいたくていたんだろうに。あのポジションに憧れて、叶わなかった子だっていただろうに。

非難が喉まで出かかったところに、じろっと視線をもらう。


「…今お前、絶対なにか誤解してるだろ」

「してないよ。私の知ってる都筑くんはいつも女の子と一緒にいて、でもその子たちが何人いたか覚えていない、ってこれだけ。どこか間違ってる?」

「間違ってはいないが、偏ってる」

「どんなふうに?」


彼はなにか言おうと口を開けかけて、やめた。


「なに?」

「やっぱりいい」

「どうして」

「なに言っても逆効果になりそうだから」

「向こうから寄ってきただけだ、とか?」

「お前、そういうこと言うタイプだった?」


眉をひそめる都筑くんに、私はどうしてか、逃がさないぞ、という気分になってくる。夜は気が大きくなるというのは、本当だ。


「図星でしょ」

「うるせーよ」

「まさか全部が全部、寄ってきただけとか言わないよね」

「全部寄ってきただけだよ」

「さっきみたいに、かわいいじゃん、とか気を持たせるようなこと言ってたんじゃないの?」


我ながらいやらしく絡んでみると、そむけられた顔が悔しげにむくれる。やっぱり、猫をナンパしているところを私に見られたのは、そこそこ不名誉だったらしい。

ぎゅっと口を引き結んで、そっぽを向いて。

やがてその目が私を見て、不本意そうに、困ったように笑った。


「千野寿のくせに」
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