イジワル御曹司に愛されています
「セミナーのほうは事務局と動き出してる。原稿だけ期日までに共有するのを忘れずにいてくれれば、あとは任せてくれていいから」

「あの、たくさん時間使ってくれてありがとう、大変だったよね」

「別にサービスしてたわけじゃない。ちゃんと上とも相談して、ほかの仕事との配分を変えた上でやってたから、大丈夫だよ」


あ、そんなオフィシャルなサポートだったのか。本当に、働き方が個人の裁量に任されている会社なんだなあ。ちょっと憧れる。

都筑くんが鞄からクリアファイルを取り出した。


「で、今日は進捗確認もなんだけど、出展社特典の話を…おい、どうした」

「安心したら、痛みが…」


急に、足首が破裂しそうに脈打ち、私は脂汗をかきはじめていた。これは、痛いを通り越して、怖い。


「顔、真っ青だぞ、病院行けよ」

「でも…」

「俺の件は急ぎじゃないから。せめて医務室は? 産業医は常駐してないのか」

「提携してる病院が近くに…」

「じゃあそこ行こう、タクシー呼んでおいてやるから、荷物取ってこい」


痛みのあまり涙目になって、都筑くんの心配そうな顔を見上げた。

ダメだ、くらくらしてきた。考えがまとまらないので、とにかく言うとおりにしよう。


「そうする」

「エントランス前にいるからな」

「うん」


立ち上がると、うっと声が漏れるほど痛い。思わずすくんだ私の左腕を、都筑くんがつかんだ。


「体重かけていいぞ」

「また体重の話…」

「突き飛ばしてやろうか?」


なけなしの冗談は、冷たくあしらわれてしまった。

ロビーに出る場所で別れ、ひいひい言いながらオフィスを目指す。さいわい、たどりつく前に松原さんと廊下で遭遇した。


「どうしたの!」

「あの、階段で転びまして、すみません、ちょっと病院行ってきていいですか」

「行きなさい。一人で大丈夫? ついてこうか?」

「いえ、えっと…」


どうして自分がそこでつっかえたのかわからず、ふわっと顔が染まる。


「つ、都筑くんが一緒で」
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