イジワル御曹司に愛されています
あかねだ。会社の友達とハワイで年越しして、昨日戻ってくるはずが、欠航によって丸一日後ろ倒しになってしまったらしい。


「地元のバスの路線図とか、完全に頭から抜け落ちてて、想定外の苦戦を強いられたわ」

「わかる、高校のころって、どこ行くにも乗るバスがすぐわかったのにね」

「あ、これ私たちじゃん、懐かしい」


私とあかねは一年生のときに出会った。同じ中学校から進学した子が誰もいなくて、ひとりぼっちだった私に、同じ境遇のあかねが声をかけてくれたのが始まり。


「よくこんな、真冬に脚出してたよね。見てるだけで関節冷えるわ」

「年々寒さに弱くなってくるよね…」


物悲しい話をしつつ、次の写真に視線を動かしたとき、あ、と思った。


「都筑だね」


あかねも気づいた。

一緒に写っている誰かが提供したんだろう、学園祭の準備中の写真で、都筑くんは軍手に金づちを握り、木材に釘を打っている。撮られていることには、たぶん気づいていない。

同じときの写真があと何枚かあり、そのどれもに都筑くんは写っていた。ものによってはカメラ目線で、軍手でピースサインをしているものもあった。

若い。というか、幼い。

Tシャツ姿の身体は、まだ少年て感じだし、顔も全体的に今よりふっくらして、子供っぽい。誰と比べてもひと際明るい髪の色も、その印象に貢献している。

今見ると、別に怖くもない。ただのかわいい男の子だ。

こんなだったかなあ…。


「ああいう奴らって、日頃だるいとか言うわりに祭には参加するよね」

「都筑くんは、根がまじめなんじゃないかな…」


ついつぶやいた私に、あかねが大げさに眉を上げてみせた。


「へえ? どういう評価の変わりよう?」

「別に、もとから評価とか、してないし」

「うわあ、あれ見て」


あかねが上のほうにある一枚を指さした。ここからでもわかる、金色に近い髪の男の子と、その子に肩を抱かれた女の子。どう見ても自撮りだ。

"自分が写っているものに限る"というのがこの写真提供のルールだったので、当然、送り主は彼女のほうだろう。
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