イジワル御曹司に愛されています
「個人的な思い出飾る場所じゃないっての。貼るほうも貼るほうだわ」


都筑くんがここにいたら、どんな反応をしたかなあと考えた。反応するのも億劫だから、来なかったんだろう。

ハウリングの音が一瞬耳をつんざき、三年次のクラスごとにテーブルを囲むようアナウンスがあった。立食は気楽でいいけれど、足が疲れる。

乾杯に向けてテーブルの上のビールグラスをめいめい持ち、瓶ビールを注ぎ合っているとき、ひとりの女性があかねに飛びついた。


「あかね、久しぶり! あれっ、こっち千野ちゃん?」

「お? えーと…」


見覚えがないのか、あかねが戸惑っている。私もない。清楚な黒髪をさらっと肩に流した女性は、困惑する私たちに楽しそうに笑いかけた。


「あたしあたし、木村未沙(きむらみさ)」

「ええっ!?」


私たちだけじゃなく、周りにいた数名も声をあげた。印象が違いすぎたからだ。

木村未沙ちゃんといえば、さっきの写真で都筑くんに肩を抱かれていた、あの子だ。髪は明るいアッシュブラウンで、きついメッシュが入っていて、もとの目の大きさがわからないくらいのアイメイク。


「あはは、けっこう堅い会社に勤めてるんだ。こっちのほうが生きやすいわ。千野ちゃん、きれいになったねえ」


派手な見た目と言動にもかかわらず、私みたいな地味なのにも気さくに話しかけてくれた子だ。それにしても、すごい変わりよう。

呆然としてしまった私を、あかねが小突く。


「都筑もこのくらいの飛び幅なわけ?」

「えっ、なに、都筑って言った、今?」


未沙ちゃんの食いつきに、思わず私もあかねもたじろいだ。本当に噛まれるんじゃないかという迫力。


「ねえ、会場で見てないよね、都筑くん?」

「こ、来ないって言ってたよ」

「言ってた? なに、千野ちゃん、都筑くんとつきあいあるの?」


あっ…そういう方向?

しまったと思うも遅く、未沙ちゃんが私の手を熱烈に握りしめ、鼻息も荒く目を輝かせた。


「連絡先教えて」

「いや、そんな、勝手には…」

「私に教えていいか本人に聞けばいいじゃない! 聞いて! お願い!」

「えっ、えっと…」

「ほらほら、未沙、そのへんにして。乾杯だって」
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