イジワル御曹司に愛されています
つかの間、猛獣みたいになっていた未沙ちゃんが、気を取り直してグラスを持つ。私たちが三年生のときの学年主任が、いくぶん筋肉の落ちた身体でマイクの前に立った。


「なあさっき、都筑の話、してた?」


乾杯が終わると、男の子がふたり、こちらにやってきた。誰だろう…とまた考えてしまう。突っ立ったままの私に彼らは笑い、それぞれ「川合(かわい)」「御宿(みしく)」と愛想よく名乗った。


「あっ!」


都筑くんとつるんでた子たちだ…!


「変わったよなー、特にこいつ」

「うるせーよ」


言われた川合くんのほうは確かにだいぶ変わっていて、20キロくらい増えているんじゃ、という感じ。全体的に、女の子はあか抜けてきれいになった子が多いのに比べ、男の子のほうが振れ幅が大きくて驚く。

そしてやはり未沙ちゃんが真っ先に食いついた。


「なに、都筑くんの話がなに?」

「いや、あいつんち、今大変そうだからさ。元気してんのかなと思って」

「大変そう?」


首をひねると、御宿くんがこちらを見た。


「都筑の家、でっかい会社じゃん? 社長やってる親父さんがこの数年、身体壊してるみたいなんだよね。で、仲の悪い叔父さんが出張ってきて、会社を乗っ取ろうとたくらんでるらしい」


私はぽかんとそれを聞いていた。それは、都筑くんがお父さんの会社に入らなかったことと、関係があるんだろうか。

あかねがグラスをなめながらうなずく。


「そのビジネスゴシップ、雑誌で読んだわ。あれ都筑の家のことだったのか」

「相当ゴタゴタしてるらしいよ。地元に残ってる奴はけっこう耳にしてると思う、工場あるしさ」

「じゃあお父さんって、こっちで療養してるのかな」


つぶやいた私に、全員の視線が集中した。


「都筑の親父さんは、昔から東京住まいだよ」

「え? じゃあ、都筑くんの家は?」

「スイーツ御殿? あれはおふくろさんと都筑だけが住んでた家だよ。たまに親父さんも顔見せてたらしいけど」

「そもそもあの会社、本社は都内だろ」


えっ、そうなの。嫌だ、私、なにも知らない。

あれ、じゃあ都筑くんは、ずっとお母さんとふたり暮らしだったということ?


──実家には帰る?

──帰らない。
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