イジワル御曹司に愛されています
きっぱりとしたあの返事は、面倒くさがっているというよりは、はっきりその意思はないと言っていたように思う。なにか事情がありそうな。

私、都筑くんのこと、全然知らないんだなあ…。


「で、千野ちゃん、さっきの話」

「えっ」

「つないで! 都筑くんと!」

「えっ、でも…」

「今ちょっと電話してくれるだけでいいから! ダメって言われたらそこであきらめるから!」

「あんた、まだ都筑にそんな未練あるの」

「いないんだって、あれよりいい男なんて、はいっ」


未沙ちゃんは、私が肩に提げていたバッグに手を突っ込み、携帯を出すと私に握らせた。恋する女の行動力、すごい。

携帯を見つめ、ためらう。こんな用件で都筑くんに電話って…ありなのか。

でも、よいお年をと言ってくれたあの日から、実際一度も会えないまま冬休みに入ってしまった。会う理由がないんだから、仕方ないのだけれど。

徒歩で行き来できる距離に自宅があるとはいえ、ご近所というほど近くでもない。そうそうすれ違うわけもなく、偶然会ったのもあの二回きり。

声が聞きたい。

私の背中を押したのは、そんな思いだった。


『はい』

「あ、都筑くん、千野です、ごめんね、お休み中」


少し人込みを離れたところで、小声で電話をする。遠くから未沙ちゃんの熱い視線を感じる。


『どうせ仕事してたから大丈夫だよ、明けましておめでとう。なにかあった?』


慌てて「明けましておめでとう」と返してから、今さら恥ずかしくなった。仕事の話じゃないんです、ごめんなさい。


「あのね、今、同窓会に来ててね」

『ああ、今日だっけ。年明け早々大変だな』


話の行き先を訝しみながらも、気前よく相手をしてくれているのがわかる。さっき見た、未沙ちゃんの肩を抱く腕が、なぜか脳裏によみがえった。


『楽しんでる?』

「うん。川合くんと御宿くんに会ったよ、川合くん、巨大化してた」

『マジか。だっせえって言っといて』

「言っとく」


明るい笑い声に、ほっとした。いい思い出がないとは言っていたけれど、思い出したくないほどの場所ではないのだ、きっと。

私はもう少し声を聞いていたくなり、本題を先延ばしにすることにした。


「なにしてた?」

『仕事してたって言わなかったっけ』


言ってたね…。
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