イジワル御曹司に愛されています
「会社?」

『いや、家で。休み入ってからコンビニ行く以外で外出してない。幸せ』

「意外、出不精なんだ?」

『プライベートでは、そう。千野の散歩情報がなかったら、いまだに駅と家の間にある店以外、知らなかったと思う』


営業さんなんて、出歩きたくて仕方ない人たちなのかと思っていたら、違うのか。


「またアップデートしたら、案内するね」

『よろしく。教わった中では、公園とラーメン屋がダントツの利用回数だな』


仕事で会っているときよりも、ちょっとゆるい気がする、休日の声。自分が地元にいるのも手伝って、なんだか不思議な気分。電話ってすごい。


『で、なに?』

「え?」

『なにか用があって電話してきたんじゃないの?』


あっ、そうだった。危うく忘れるところだった。


「都筑くん、木村未沙ちゃんって覚えてる?」


間があった。

あれっ、聞こえていないのかな、と心配になったころ、向こうが口を開く。


『なんで?』


えっ、そう来る。

ええと…もう全部言っていいよね、これは。


「未沙ちゃん、都筑くんの連絡先を教えてほしいんだって。差し支えなければでいいんだけど、私から伝えても、いい?」


再びの間。


「あの、嫌ならいいよ。未沙ちゃんもそう言ってたし」

『別にいいよ、教えて』

「無理にとは…」

『いいって言ってんだろ、携帯の番号でもIDでも、なんでも教えていいよ』


あれっ、もしかして、怒っている?

なんで…なんで?


「…ほんとに嫌じゃない?」

『しつこい。嫌だって言ったほうがいいなら言うけど』

「そ、そんなことないよ。あの、未沙ちゃんが誰だかはわかるよね?」

『わかんねーっつったらその女はあきらめてくれんの?』

「え…まさかほんとに?」

『何度も言ってるけど、高校の奴なんてほとんど覚えてねーよ』
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