イジワル御曹司に愛されています
きっぱりと言われ、胸がざわついた。

あんなに親しげにくっついていたくせに。写真、持ち帰ってあげようか。


『なに黙ってんだよ』

「…なんでもない。番号、伝えておくね」

『どうぞ。ごくろうさん』


言い捨てるなり、都筑くんはブツッと通話を切った。熱を持った携帯を眺め、呆然とする。

あれ…もしかして、本当に怒らせた?

いつもの皮肉とかからかいとかじゃなく、本気で不快そうな声だった気がする。

どうして?

嫌なら嫌って言ってくれれば、伝えなかったよ、私。

未沙ちゃんとなにかあった…わけじゃないよね、覚えていないんだものね。

携帯をバッグに戻そうとして、内ポケットの中の飴に気づく。まるでごほうびみたいに、都筑くんからもらった飴。もったいなくて食べていなかったのだ。

パーティホールの片隅で、途方に暮れた。

どうして? なにが嫌だった?

かけ直して謝ったほうがいい? でもなにを?

絶望に涙が出そうになる。

都筑くん、どうして…?


* * *


「寿、だらだらしてるならお店出てちょうだい」

「だらだらしてない、のんびりしてるの」

「お前、東京でそういう言い訳学んできてるのか」

「お兄ちゃん!」


母の後ろから、兄が笑いながら顔を出したのを見て、私は急いでこたつを出た。


「手伝います」

「まー、お兄ちゃんの言うことなら聞くわけね」

「うん、そういうわけ」


住居から廊下でつながっている工場を抜けると、店頭に出る。途中で割烹着を着て、三角巾を頭に巻いた。

我が家は曽祖父の代から続く和菓子店。
< 50 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop