イジワル御曹司に愛されています
せいぜい一度に100名ほどしか相手にしたことのない私には、想像のつかない規模だ。倉上さんが「こちらです」とドアを開けてくれたホールは、コンサートでも開けそうなサイズだった。


「まあ三階席は閉じるとして、2,000名強ですね、集めるのは」


社風なんだろうか、社交的で礼儀正しく、自信にあふれた立ち居振る舞いが、最初のころの都筑くんとそっくりだ。同じ上司や先輩の下で育つと、こういう雰囲気って似るのかな。


「SNSで特設アカウントを作り、会期前から質問を募集します。もちろん会期中も受け付け、現地に来られない人のために講演はリアルタイムで配信をします」

「えっ、そこまでするんですか、すごい」

「こちらは、千野さんのアイデアとうかがってましたけど」


驚いたら、逆にきょとんとされてしまった。


「え」

「都筑から、いいアイデアだから絶対実現するようにときつく言われ、僕ら、がんばったんですけど」


ふたりぶんの視線を受けても、都筑くんはステージに目をやったまま、しれっと素知らぬふりをしている。私の独り言を、こんなふうに現実にしてしまう人。


「…いえ、私が考えたのは、そのごく、一部で」

「あら、そうなんですね」


倉上さんが面白がって彼の肩を揺すった。


「お前、なにスカしてんの?」

「よけいなこと言わなくていいから、さっさとバックヤード連れてけよ」

「はいはい」


あれ…。


「仲、いいんですね」

「同期なんです、僕ら」


倉上さんが親指で都筑くんを指す。

へえ!


「じゃ、私とも同い年…かな?」


なんとなく、本人だけに聞くのも不躾に思えて、つい都筑くんに尋ねたら、彼がそっけなく「そう、タメ」とうなずいた。
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