ガラクタ♂♀狂想曲








SIDE 大成(オーナー)




隼人が帰国して二か月ほど経つ。
今日は久しぶりに会う日なのもあり、奴が最近集めはじめたというコインを手に取った。今日これをプレゼントする予定だ。

コインといっても通貨ではない。ドラクエというゲームで世界中に散らばっているコインを集めると素敵なアイテムが貰えるイベントがあるが、それを真似ているとのこと。隼人が思いつきそうなことだ。

100枚貯まれば彼女にプロポーズをしたいと話した隼人の手には、コインがまだ10枚ほどしかなかった。


さてと。忘れ物はないかと部屋を見渡す。
ふと彼女がはじめてここへ来たときを思い出した。以前は週に4〜5回のペースで来ていた隼人だが、あの日は久しぶりだった。

あのとき俺は、隼人が彼女の前でならピアノを弾くのではないかと思い、わざとピアノがあるここを選んだのだ。それなのに彼女はなかなか話題を振らず、隼人は隼人で飲むペースがいつもより早かった。懐かしい想い出だ。

譜面がないと弾けないといった隼人だったが、基本あいつは譜面を見ない。

小鳥のさえずりや、木々のざわめき、アスファルトに落ちる雨、耳に入るものすべて音階で聴こえると話した隼人。いわゆる絶対音感の持ち主で、それをそのままメロディーに乗せることも容易くできた。

聞けばピアノのレッスンは、これまで特別に受けたことがなく耳で拾って気持ちがいい曲ばかりを弾いてきたという。それがいまやピアニストと名乗ってもいいほどに成長している。並外れた才能があるとは思っていたけれど、ここまでだとは思っていなかった。

以前「ピアノは心の声が出てしまう」と言っていたけれど、俺はそんなことを経験したことは一度もなく。ただ目の前にある譜面の記号をそのまま弾けば美しいメロディーを奏でてくれる楽器でしかないと思っていたのもあり、隼人との時間は楽しくて仕方がなかった。

そういえば——、


"初見でそれ?"

『下手ですか?』

"——驚いた。上手すぎる"

『そうですか? だけど楽譜のまま、ただ弾いただけですよ?』


当時を思い出し、思わず頬が緩む。
譜面のまま弾く隼人にも勝てなかった。

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