例えば危ない橋だったとして

ふたりとも気が早いんだから……付き合った途端、実家に呼ぶなんて……重過ぎる。
そりゃあ、お母さん……たぶんお父さんも、心配してくれてたから、安心させたいとは思うけれど……。
わたしはその思惑を心の底に仕舞い込み、休み明けいつも通りに出社した。

「おはよう、さ……黒澤くん」
「……おはよ、榊」

既に席に着いていた皐に、いつも通りに挨拶をしたつもりだったが、お互いに照れが混じった。
名前で呼んでしまいそうになり、慌てて平静を装う。
皐は今日も髪型もスーツも、抜かりなく決まっている。
……わたし週末このキラキラした人と……さ、3回も……。
その最中が脳裏に蘇り、一層顔を赤くした。

すると皐がたしなめるように、手を添えながら口をぱくぱくと動かした。
口の動きを懸命に読み取ろうと試みる。
こころ……の、こえ……だだもれ

恥ずかし過ぎて死にたくなったので、ひとまずトイレに避難した。
この調子で毎日を乗り切れるのか……? 疑念が湧き上がる。
躍起になって煩悩を頭から追い出し、席へ戻った。


業務が開始されると、今日の新設ビル設備情報がシステムに上がって来ていた。
設備構築や新たなビル設備が完成した際に、情報が届くようになっている。

「あ、これ……例の市庁の現場事務所の分だ。ねぇ、黒澤くん」
「あぁ……そうだな」

画面を覗き込みながら、皐が答える。

「やっと完成したんだー……!」
「そろそろ2ヶ月だよな。念の為、協力会社に工事完了の確認取って、それから登録だな」

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