例えば危ない橋だったとして
閉まりかけたエレベーターに駆け込んだ。
「嘘吐きっ」
無我夢中でネクタイを引っ張って、キスをした。
弾みで皐の上に倒れ込む。
思いがけず、涙がぼろぼろ零れ落ちる。
「わたしはっ! 皐が話聞いてくれた時……心配してくれた時! 本当に嬉しかったの! なのにっ……何でまた壁作んのっ! 仮面被んの……! 隠し事……嫌だ……」
目を見張った皐の顔が苦しそうに歪み、瞼を閉じた。
わたしの後頭部に腕が回される。
「……わかった、話すから……。ごめん。ごめんな……」
わたしは皐の胸の温もりを感じながら、彼のコートを握り瞼を伏せた。
エレベーターを降り、ビルの外へとゆっくりと歩き出しながら、皐はぽつぽつと言葉を紡いだ。
「……俺、このところ、動揺してたから……全然、一千果に優しく出来なかったから……傷付けたくなくて、俺から遠ざけたかった……」
皐が足を止め、わたしをじっと見つめた。
しばし沈黙する皐の、次の言葉を待った。
「……俺が見てなくても、もう全然大丈夫だなって思ったら……自分がちっぽけに思えて、駄目だった。俺……お前といると、自制出来なくなる」