例えば危ない橋だったとして

「……俺はさ……結構早い段階から異動は仄めかされてて、最後まで教えられるかって計画練ってたんだ。なのにさ……実際、内示が出たらこの有様。俺にとっても、お前と過ごした時間全部、大切だったよ……」

見上げると目を合わせて、愛おしそうにわたしの髪を梳いた。

「引き継ぎもあるし、来週うちの部署内では公表するって言ってたから……それまで絶対黙っとけよ。顔に出すなよ」
「う、うん……」

念を押した皐は、急に気概を滲ませ男の人の顔になった。

「この会社は、異動して経験積んでからでないと昇進させないからな」
「……昇進」

「課長には、それを目指しての異動だって言われてる。新人の育成も、評価対象になってる」

わたしを指差し、凛々しく微笑んだ。

「そっか……そうだよね。応援する。頑張って、皐」

皐の決意に、心からの笑顔を返した。


大通りに出て歩き出すと、皐が顔を覗き込んで来る。

「……俺のことは許してくれたの?」
「えっ、うん……許したよ?」

「じゃあ、まだ帰らない?」
「うん……食べに行こうか?」

皐の甘えた態度と、綺麗な顔が近過ぎて、途端に頬が火照って来る。

「……俺としては、一千果が食べたいんだけど」
「!!!」

この至近距離で、その顔でそんな殺し文句囁かれたら……断れるわけない。

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