シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 そういえば合宿中の食事はどうするんだろう。
 何も持ってこなかったけれど、寝るときも制服姿だろうか。体操着は、夏休みで持って帰ったままだ。
 いきなり家を出てきてしまったから、準備不足なのは否定できない。
 行ってみたらどうにかなるかな。
 いつもの後回し主義に身を任せ、不安を忘れることにした。
 一人じゃなければ、きっと大丈夫。

 神南学院高校前のバス停で降り、ガードレールの内側を歩く。
 学校は都心に位置するわりには緑豊かで、敷地から伸びた大樹の葉が地面に影を作っていた。
 校門前の守衛さんと挨拶し、まずは中学校の校舎へ向かう。
 昇降口の下駄箱を確認すると、二年一組の棚に自分の名前を見つけた。
 さすがに認めないわけにいかない。
 ここは八年前の世界で、わたしは中学二年生。
 バンド解散のショックで時間が巻き戻ったのか、それともわたしがもともと生きていた世界とは別の世界に飛ばされたのか、さっぱりわからないけれど、意識が時間をさかのぼって、十四歳当時の肉体に宿った感じだ。

 卒業以来、訪れていなかった懐かしい校舎。
 少しだけ風が吹いた。
 わたしは深く息を吸い込む。
 靴を履き替え、教室に向かおうとしたとき、廊下の向こうから鋭い声が聞こえた。

「他人の家のことに口出しすんな……!」

 反射的に身を隠す。
 あの口調は、聞き間違えるはずがない、航だ。
 航が誰かと口論している。
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