危険地帯
気づけば、寒い冬が過ぎて、麗らかな春が訪れていた。
ポカポカ陽気に包まれながら眠っていた私は、ガサゴソと音が聞こえて目を覚ました。
泥棒かと思って家を見渡すと、お母さんが自分の荷物をバックに詰めていた。
『おか、あさ、ん……?』
思わずこぼれ落ちた声。
何を、してるの?
『どうして荷物なんて……』
既に起きていたお父さんが、お母さんを見て目を見開いた。
床には、お母さんが割った食器の残骸が、キラキラと光っていた。
『もう限界なの』
ポツリと呟いたお母さんは、バックを担いで玄関の扉を開けた。
いつも目を覚ますと聞こえてきた、うるさいくらいの口喧嘩がないせいか、お母さんの声がとても小さく聞こえた。
キッチン前のダイニングテーブルの上には、お母さんのサインの入った離婚届が置いてあった。
どうすればお母さんを引き止められるのか、幼いながら、頭をフル回転させて考えていた。