世界が終わる音を聴いた
このカフェ&バーは、昼は常連の奥様方や近隣のサラリーマンたちの憩いの場であり、夜になると雰囲気を変えて気軽なバーになる。
もちろん、カフェ&バーという側面からお酒の種類だけでなくフードメニューも充実していたり、デザートも文句なく美味しい。
けれど、人気を呼ぶ理由はそれだけではなく、お店の突き当たりにあるピアノに由来していた。
「シキさんは今日は歌わないんですか?」
「いや、……そのうち降りてくるだろう」
カウンターに居た無表情のオーナーに話しかけると、そっけなく言葉を返してくれる。
それは決して機嫌が悪いとかいう訳ではなく、オーナーのデフォルトなのだ。
「シキさん歌うなら、このまま居座っちゃおうかな」
「好きにどうぞ」
「じゃあ、好きにします」
何年ぶりに来ても、変わらない。
オーナーも弟さんもこのお店も、変わらず私を受け入れてくれる。
そんなことが嬉しくてクスクスと笑いが漏れた。
コーヒーを口に運ぶと、昔と何ら変わらないその味に、ふと肩の力が抜けていくのを感じた。
時間は流れる。
人の命はいつか尽きる。
その変わらない事実を、私は今改めて思い知っているに過ぎない。
「……こんにちは、お久しぶり」
柔らかなメゾソプラノの声に誘われて顔をやると、さらさらのストレートロングな漆黒の髪が印象的な女性が微笑みをたたえてそこに居た。
昔よりもその雰囲気が柔らかくなった気がする。
「お久しぶりです、シキさん」
「chiyaちゃん、今まで何してたの?」
「いやぁ、……ちょっと色々、です」
「ダメじゃない、ちゃんと顔を見せてくれないと。お客さんにchiyaちゃんは?って聞かれる身にもなってちょうだい」
「すみません」
苦言を呈すようでいて、心配をしてくれていたことが分かるので、素直に謝る。