嘘月と君の声。



クルリと向きを変えて上田さんが駆け寄ったのは、最近よく見る"かいちゃん"と呼ばれるお客さんだった。
どうやら大学生で私より1つ上の2年生らしい。



「かいちゃん元気?」



かいちゃんと呼ばれたその人は「はい、上田さんは相変わらずですね。」と言いつつ視線は開いていた本に注がれていた。



「かいちゃんは相変わらず文学少年でしたとさ。」



何がしたかったのか、すぐに私の隣に戻って来た上田さんも言うように、その人はいつもお店の1番奥にある窓際のテーブル席で本を読んでいた。



< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop