嘘月と君の声。
クルリと向きを変えて上田さんが駆け寄ったのは、最近よく見る"かいちゃん"と呼ばれるお客さんだった。
どうやら大学生で私より1つ上の2年生らしい。
「かいちゃん元気?」
かいちゃんと呼ばれたその人は「はい、上田さんは相変わらずですね。」と言いつつ視線は開いていた本に注がれていた。
「かいちゃんは相変わらず文学少年でしたとさ。」
何がしたかったのか、すぐに私の隣に戻って来た上田さんも言うように、その人はいつもお店の1番奥にある窓際のテーブル席で本を読んでいた。