忘れたはずの恋
「…ごめんなさい」

ここに来るまでに何人の人が振り返っただろうか。

…きっと会社の人にも見られているよ。

「タオルで顔は隠しましたからきっと見られても大丈夫だと思います」

不安が顔に出ていたのだと思う。
藤野君は苦笑いをしてそう言うと私を玄関でようやく降ろしてくれた。

「あ、お風呂、入ります?
その間に濡れた服の洗濯もしますよ」

…洗濯?

顔が火照る。
耳まで熱くなってるよ。

「さすがにそれは…」

ダメでしょ〜!

「僕は気にしないですけどね。
帰る時、大変ですよ?これだけ濡れていると。
…それとも僕の服を着て帰ります?
家族の方に怪しまれると思いますけど」

それも困る…。

「とにかく、まずはお風呂ですよ!」

そう藤野君は言うと浴室まで案内してくれた。



さっきまでの雨の中と違い、温かいシャワーが私の体を包んだ。

「タオルと替えの服、置いておきますね」

ドアの向こうから藤野君の声が聞こえた。

「すみません」

「いえいえ」

立ち去る気配がした。

本当に12歳年下なんだろうか。

私達と変わらないような立ち振舞い。

同年代と錯覚しそうになる。

…元カレにはこういうところはなかった。

常に自分が一番で、ずっと気を使っていたのは私だった。

本当はこういう人と付き合えたら良かったのに。

最後の最後まであんな事をされて。



「お風呂、ありがとう」

藤野君は私の姿を見ると安心したような笑顔を見せて

「僕もさすがに走った後なんで入ってきます。
…まだ帰らないでくださいよ?
洗濯も今、してるし」

悪戯っ子のような顔をして浴室に歩いていった。

…結局、服は洗濯されていたのね。

下着もね。



しかし藤野君。

細い体をしてるな…。

上のTシャツはまだ余裕があるけど…。

下のハーフパンツ、ヤバい。

ピッタリ、というかピチピチなんだけど。

しかも私、パンツ履いてないし。

ラインが見えそう。

必死にTシャツの裾を下に下げた。
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