忘れたはずの恋
ラスト1周。

私の手のひらは酷く汗ばんでいた。
まだ残暑が残るとはいえ、酷い汗。

「危ないっ!!」

むっちゃんの叫び声で我に返る。
私はむっちゃんの視線の先を見つめた。

1コーナーから2コーナーにかけて、コースを大きく外れたところで大きな砂埃がそこに上がっている。

「もうー!!どうしてそこで寄るのよ!!」

むっちゃんが自分の膝を思いっきり叩いた。
唖然としている私に

「バックマーカー…周回遅れが幸平のラインを思いっきりふさいでしまった。
幸平も避けようとはしたんだけど、逆効果。
体がホンの少し起きた瞬間に接触して二人とも端まで行っちゃったわ…」

ため息交じりに説明してくれた。

藤野君はなんとか起き上がってマシンも起こしてエンジンを掛けようとしたけれど、掛からなかった。
一瞬、天を見上げて、首を左右に振って肩を落とすのが遠目で見えた。



嫌な予感って結構な確率で当たる。



凄く、楽しみにしていたことが自分の前でスルリ、と落ちていく。

ああ、そうだった。

私ってそうだもん。

前も、形は違うけれどそうだったし。



だから恋はしないって思ってたのにね。



そう思っていたから余計に歳の離れた藤野君の事は好きになってはいけない。

何度も言い聞かせたのに。

いくら言い聞かせても自分の心は激しく揺れてどうしようもなくなって。

もう、これ以上自分が傷つくのは嫌だから。

だから叶いそうにもない藤野君の提案に乗ったのに。

想像以上に藤野君が凄すぎて、このままもし勝つ事が出来たらきっと私も幸せになれる。

そんな期待を一瞬でも込めた私がバカだったんだ。



今、もうどうしていいのかわからない。
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