忘れたはずの恋
6月。

吉永さんが異動してきて1ヶ月が経った。

彼女、細かい所によく気が付くし、僕としては有り難かった。

吉永さんのちょっとおっとりとした性格に癒される者が多いのか、用事のついでに雑談していく者がいて、僕の周りの雰囲気は変わった。

今まで殺風景だった所に一輪の花が咲いたような、そんな感じだ。



今日も外は厚い雨雲に覆われている。

昼休みもあと僅か。

藤野は昼の休憩を少し遅めに取る僕を知っていて、いつも自分の休憩が終わる10分前に僕の所へ来て、色々と話をする。

中々、自分の立場を理解して貰えない中、僕や相馬課長というモータースポーツ好きな人間がいると嬉しくて仕方がないのか、毎日来る。

僕が休んでる時、この子どうしてるんだろうと心配になるが。

今日は僕の卓上カレンダーを必死に見つめている。

ふと視線を上げると休憩から吉永さんが帰って来て、前の席に着いた。

「この日からテストなんです」

藤野は7月上旬を指差す。

「班長とも話し合ったんですが、どうしても7月に年休を10日くらい使いそうで…」

さすがにそんなに使うと後半まで持たないな…。

夏期休暇を入れてももう少しセーブしたい。

「う〜ん、そうですねえ…。
じゃあ日曜、出勤してみてはどうですか?
そうすれば平日は休めます。
まだまだ走られる範囲が限られているので不安だと思いますが君のような物覚えの早い子なら感覚さえ掴んだら大丈夫と思います。
一度、僕から三木さんには話をしてみますね」

藤野の配達センスは抜群で5月には1区を一人で完璧に配達出来るようになり、今は2区目。

班長の三木さんが今月末にはそこも完璧にいけると言っていた。

「ありがとうございます!」

藤野、尻尾があれば今、絶対に振ってるよね。

「いえいえ。
少しでも休暇は残さないとね」

そう言った瞬間、藤野は声を上げた。

「あ、そうだ、吉永さん」

藤野、いきなり吉永さんに声を掛けて何するんだ?
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