柊くんは私のことが好きらしい
『数Ⅰの範囲教えて!』とか『髪切りたくて聞いて回ってるんだけど、いい美容院知ってる?』とか。
比較的返信しやすかったメールに、ふっと他愛ない話題も混ざり始めたとき。暇なのかなと思う反面、嬉しくなってしまった。これは何事なんだろうって深読みするようにもなった。
だって柊くんは住む世界が違う。校内一の美少女とか、他校の読者モデルとか、そこにいるだけで華やかな子と付き合うのがお似合いな人。
どれだけ気さくだろうと、その点は絶対に周囲の予想を裏切らないだろうと思っていたのに。
席替えをして離れてしまっても、毎日続くあいさつ。
睡魔に勝つ気もなさそうなほど増えていく、ノートを貸す回数。
気付けばひとりの男の子の名前で埋まっていく、私の携帯。
クラスメイトとしてこれは普通のことなのかと考える、日々。
気になり始めていた。そう感じる時点できっともう意識していた。
教室内の離れた場所で目が合うと、微笑みかけてくれるようになった柊くんのことを。
「――っ」
うわ、どうしよう……! ていうかこっち来てる!? 私に向かってきてる!?
かちあってしまった目を逸らす暇もなく、柊くんが歩み寄ってくる。距離が詰められるたびガチガチに強張っていく私に、「石化か」と突っ込んでくれた咲のそれは残念ながら何の効力も持たず、ただ耳を通り過ぎた。