正しい男の選び方
浩平はグラスにワインを注ぐ。
「何の演出、これ?」
「君の大好きなエコだよ。電気を使わないようにしたのさ。
今日は、ろうそくの光で残飯を食べてようと思って持って来た。おかげで大荷物になっちゃったけどなー」
浩平は真面目な声で言う。それから浩平が黙ると急に静かになった。
ろうそくの燃える音だけがやけに耳につく。
「……にしても、ろうそくの光って暗いな。何もできない」
「夜だもの」
「……確かに夜が暗いなんてこと、忘れるよなー、ウチにいると」
浩平がグラスを差し出して来たので、葉子は自分のグラスを手に取ってカチンと鳴らした。薄暗い部屋のなかにグラスの音が響く。
光がない、というだけで、グラスの音がいつもよりよく聞こえるから不思議だ。周りがよく見えない分、耳の集中力が高まっているように思えた。
「政好と別れた」
葉子が突然切り出した。
「なんで? さっきまで嬉しそうにしてたじゃない?」
浩平が目を丸くする。
「だって……アイツ、仕事止めろっていうのよ!
スーパーの仕事なんて、パートでも出来るようなことしかしてないから、やめたっていいじゃないかって」
「ま、実際、そういう風に言えない事もないけどな」
「うるさい、黙って話を聞け!」
「はい」
「仕事やめて一緒にハワイに来てくれって。そこで、アマゾンの森林の研究をすればいいって」
「まさしく君にぴったりじゃないか」
「黙って話を聞けって言ったでしょう」
「……はい、スミマセン、続けて下さい」
「別に、私は研究なんかしたくないし、今の生活をいきなり変えるのもイヤだし、そりゃ、パートみたいなつまんないことも多いよ。
でも、少しフロアを任せてもらえるようになったし、そしたら、僕と離れてもいいの、って言うから、じゃあ、アナタがこの話を断ってよ、って言ったら……」