正しい男の選び方

(旅行か……。旅行ってことはつまりアレだよな。
 まあ、いい大人がどこかに泊まるわけだから、ぐーすか眠っておしまいってこともないよなあ……
 ってことはアレか、いよいよ正式に恋人関係に昇格する、ということになるのか)

葉子は、それを望んでいるような、もう少し後伸ばしにしたいような、ヘンな気持ちだった。

「ああ、うん、行きたい! いいですね」

改めて前向きな返事をすると、政好は遠慮しいしいおずおずと葉子を抱きしめた。
抱きしめた手の位置はちょっとヘンだったし、緊張のせいで固くなっていたし、おまけに力加減が分からないみたいで少し苦しかったけど、でも、それは政好の誠実な愛情が伝わってくるような抱擁だった。

「あたた……」

息が苦しくて思わず声をだすと、政好はぱっと手を離した。

「う、ごめんなさい! お、思わず緊張して力が入りすぎました」

政好も相当緊張しているのだろう。ひどく他人行儀な敬語になっている。
可愛いなあ、と思ったら、自然と葉子は政好の首に手を回してキスをしていた。

政好の唇は反応に困っている。葉子はもう少し大胆になって、政好の唇をちゅっと軽く吸ってみた。

それから葉子は顔を離した。

「あの……あの」

政好は真っ赤になって言葉に詰まっている。

葉子は

「おやすみなさい」

とだけ言い、軽やかに改札の向こうに走り去って行った。


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