スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「コード進行? って、ハ長調があってニ短調があってト長調があってハ長調が来る、その並びのことですよね?
コードって、例えばハ長調ならドミソの明るい和音、二短調ならレファラの暗い和音のことで」
正解、と頼利さんは返答しながら、椅子に掛けたままのわたしの真後ろに来て、わたしの体の両側から腕を回して、鍵盤の上に両手を置いた。
抱きすくめられるような格好で、肩が頼利さんの胸に触れている。
「あんたの髪、いい匂いがする」
頭上から降ってくる声は笑いを含んでいて、早速バクバク鳴り始めた心臓を、ぎゅうっとつかんだ。
「あ、あのっ、ちち近い……」
「あ? いちいち気にすんな。ジャズピアノの基本だけどな、クラシック音楽よりも手数を増やすんだ」
「て、手数を増やす?」
「クラシック音楽である『渚のアデリーヌ』は、主題の間、基本となるコードから外れる音をほとんど使わない。
ドミソのハ長調の小節はドミソだけ、レファラの二短調の小節はレファラだけで、見事にメロディとハーモニーを作ってる」
「はい。そういうシンプルで澄んだ和音から構成されるから、子どものころから聴きやすくて、お気に入りの曲だったんです。ジャズは、そこに手数を増やすんですか?」
「ああ。和音に1音加えて複雑な響きにするのが基本だ。例えば、ドミソから構成される最初の小節に、シの音を入れる」