スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
長い指を持つ頼利さんの手が、1音のアレンジを加えたフレーズを奏でる。
運転と同じ丁寧さで、柔らかくて力強い弾き方だ。
たった1音加わっただけで、曲の表情がまったく違う。
「上品で、ちょっと切ない感じ。大人っぽい響きになりますね」
「何の音を加えてもよくて、それぞれ違った表情が出せる。おれは、セブンスの泥臭い音が好みだけどな。ハ長調の場合は、ソに落ち着きたいところにラのシャープを交ぜる」
泥臭い音っていうのは、クラシック音楽育ちのわたしには耳慣れない音だった。
ピアノってこんな表情になるのかって、今さらながら驚かされる。
「何かカッコいい」
「おれが?」
「ピ、ピアノの音が! というか、何でピアノ弾けるんですか? ドラムって言ってませんでした?」
「ドラマーがピアノ弾けちゃいけないのかよ? らみにピアノ教えてるのもおれなんだぞ。ほら、ドラムとピアノって似てるだろ?」
「似てるって、どこがですか?」
「叩いたら音が鳴るから楽しい」
「3歳児みたいなご回答、ありがとうございます」
「おい」