スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
思わず笑ったら、次の瞬間、後ろから抱きしめられた。
一瞬だ。
コロンの匂いと肌の匂いが胸を満たしたときにはもう、頼利さんはわたしから離れてドラムに向かっていた。
鼓動が速くて、顔が熱い。
頼利さんと目が合う。
わたしを見つめるまなざしは熱っぽく微笑んで、それからサッとそっぽを向いた。
頼利さんはドラムのセッティングをする。
椅子の位置と高さを調整して、太鼓やシンバルのチューニングをして。
ボーッとしそうになってたわたしの意識を、ひんやりとした電子ピアノの鍵盤が現実に呼び戻した。
練習してみなさい、と叱られた気がする。
いきなりじゃ弾けないでしょ、と。
アレンジするには勇気がいる。
頭の中にある楽譜から離れて、全然違った表情で歌ってみるんだ。
やったことないけど。
うまくできるかわからないけど。
「よしっ!」
わたしは深呼吸して、鍵盤に触れる指に力を込めた。
あふれ出す、少しくすんだオシャレな音色。
胸の奥で、わくわくとゾクゾクが入り混じって、何だか思わず笑ってしまった。
この上なく楽しい予感がする。