スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


加納が頼利さんの名刺を押しのけながら、頬がひくつくほどの苛立ちを、笑顔の下に隠そうとして失敗している。

ごちゃ混ぜの表情はひどく人間っぽくて、それ以上に安っぽい。


「きみが彼女の恋人だとでも言いたいのか? 嘘をつくな。彼女が誰とも交際していないと、学校関係者から確認は取ってあるぞ」


「ほう? おれのことは内緒なのか、なぎさ?」


これは打ち合わせにあったセリフだ。

打ち合わせになくても、小学校の先生としては模範解答があるわけで。


「子どもたちは繊細なの。教師の色恋沙汰を不用意に目に触れさせると、傷付けてしまうかもしれない。

恋は結婚というハッピーエンドで終わるものだと、子どもたちは信じてるから、中途半端な段階では公表できない」


「慎重だよな。おれは絶対、離すつもりねぇぞ」


「って、さり気なく肩抱こうとしないで。ここ、喜多小の校区から近いんだから、どこに目撃者がいるかわからないんだってば」


けっこう本気で焦ってます。

だって、加納に対して説明してる以上に、ほんとのところはヤバい。

頼利さんは期間限定とはいえ、担任中の教え子の保護者さんなんだから。

教師と保護者がどーのこーのってスキャンダルは、かなり最低だ。


< 210 / 240 >

この作品をシェア

pagetop