スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
わたしは黙って助手席側に回った。
ドアを開けようとしたら、運転席に乗り込んだライリさんが内側から先に開けた。
「このドア、外から開けるときはけっこう硬ぇから」
で、わざわざ開けてくださったと?
「……ありがとうございます」
失礼なのか紳士的なのか、どっちかにしてよ。
意味わかんないぞ、この反則野郎め。
わたしは助手席に乗り込んでドアを閉めて、シートベルトを締めた。
父の車とは全然違う匂いがする。
昨日チラッと嗅いだライリさんのコロンの匂いを、かすかに感じる。
エンジンが掛かって、車が動き出して、オーディオが歌い出す。
華やかなビッグバンド・ジャズのライヴ音源だ。
文脈から察するに、昨日のあのバンド、ウォーターサイド・ジャズ・オーケストラのCDだろう。
「デュークの近くの喫茶店でいいか?」
「あ、はい」
運転席の横顔を、うっかり見上げてしまった。
ヤバい、意外と近い。
慌てて目をそらす。
そういえば、父以外の人が運転する車の助手席に乗ったのは、大学時代以来だ。
しゃべっていいのか、わからない。
話し掛けられたら応えよう。
わたしはそう決めて、両手の指を膝の上でキュッと組み合わせた。
そしてそのまま、お互い一言も発することなかった。
ジャズの音色だけが車内を満たしている。
窓の外の町の景色が流れていく。