水玉模様
「…ごめん、何でもない。」

7月の花火大会―――嫌なこと思い出しちゃった…な。


「そろそろ電車来るし、あたし行くね?」

篠田くんに背を向けて、自動改札機に切符を通そうとした瞬間だった―――。

「瀬口さん…っ!」


―――呼び止めるから…。

あたしを…呼び止めたその声が、耳に入ってきてしまったから。

涙…出そうになるでしょ。

何とか振り向こうとしたあたしよりも先に、篠田くんは言った。

「帰ったら…メールしてね?」

「…ッ。」


そういう事は…。

「…そういう事は、彼女とかに言うもんじゃない?」

「あ…。いや、ごめん。でも俺が引き止めちゃったから……無事に帰ったかどうか知りた…。」

「わかったって。気が向いたら…メールするよ。」

篠田くんの言葉を遮ってそれだけ言うと、あたしは今度こそ切符を通したーーー…。


振り向かなくて…良かった。


涙ーーー…。

涙が…止まらなくなりそう…。


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