ダブル王子さまにはご注意を!
「そりゃ、時間かかるもんね~油彩なんてもっと大変だよね。キャンバスとか絵の具とか油とか……匂いもあるし」
私が美術部の経験から言えば、郁美も目を輝かせる。
「真由理さんもひととおりの経験あるんですね」
「うん。美術部でね。コンテを使ったクロッキーの時は手が真っ黒になったな~。食パンを使って消したりしたっけ」
「わりと本格的にされてたんですね。わたしは独学なので基礎がしっかりしてないんです」
寂しそうに笑う郁美を見てたら、何だかこっちまで切なくなる。
身体が丈夫なら当たり前だった経験を、彼女はできなかったんだ。今もこうして病院にいるということは、まだ家に帰れないということ。
私は健康的に問題なしだから近いうちに退院できるだろうけど、郁美はいつ出られるんだろう? 下手するとこのまま年越し……なのかな?
(それは……いくらなんでもあんまりじゃない)
私だって異性関係はダメだったけど、それ以外はまぁまぁ充実した学生時代を過ごせた。今だって帰れたらやりたいことがたくさんある。
だけど、郁美は一切そんな経験や自由がないんだ……そう思ったら涙が出そうになった。
「よ、よし……」
郁美に見つからないようににじんだものを拭った後、勢いよく顔を上げて彼女に提案した。
「郁美、コンビニと喫茶店に行こう!」
「え?」
「いいから! それくらい問題ないでしょう?」
「は、はい……」
車椅子に乗る介助をしてから、「出発!」と気炎を上げた。