ダブル王子さまにはご注意を!
燃えるような色の木々。ひんやりと冷たい風。金木犀の薫りが……幼心に少しせつなかった。
「……あの頃の私、すごい女の子っぽかったからな~」
「そうだな。一目で見てわかるわけない。こんだけ変わり果てた姿だと」
「変わり果ててないわ! 勝手に殺すな~!」
しんみりした空気だったのに、相も変わらず無遠慮な会話をするやつ。私が憤っていると、一樹はクスクス笑った。
「すまん……だけどププッ……」
「このぉ~笑うな!」
ぽかっと額を殴れば、涙目のやつは大げさに痛がるふりをした。これだ。いつものやり取り……これが私と一樹の距離。
(これでいいじゃない。こんな時間だけで十分私にはしあわせだよね)
なんて思ってたのに。
一樹は真顔になった後、すぐに私から一歩離れた。
「一樹?」
「……おまえは……兄の妃になる……」
「え……」
一瞬、一樹が何を言ったかわからなくて目を瞬く。そんな私に彼は事実を叩きつけてきた。
「夏樹が決めたなら誰も止められない。それに、その方がしあわせになれる……誰にとっても」
「なにそれ……意味わかんない! 私は嫌なの。何度も断ってるんだよ」
私が必死に言い募っても、一樹はもう聞いてない。私の声が聞こえないように振る舞った。
「……いずれ解る夏樹の元がどれだけしあわせなのかが……オレは所詮影に過ぎないからな」
「一樹……!」
私が呼んでももはや振り返ることもなく、背を向けた彼が私を拒んでいるように見えて。
「なによバカ……私のしあわせなんて勝手に決めるな……」
私は、ただ涙を流すしかなかった。