ダブル王子さまにはご注意を!
私が自販機の前に立ってポケットの小銭入れから硬貨を投入。ランプが点いたのを確かめて「どれが飲みたい?」と訊けば、イケメン様は「ああ……」とぽかんとした表情で自販機を眺める。
「飲み物って120円で買えるのか……」
なんて信じられない呟きに顔がひきつるけど、とりあえずスルーして強引に選ばせる。
ブラックコーヒーを選んだのはまぁ無難過ぎて面白くないけど、別にお笑いに走る必要はないからね。通信可能範囲に戻ったから、店長にはインカムで謝罪しておいたら。後の処理は他の社員さんがやってくれたと。誠に申し訳ない! 鈴木さんには今度おごらないとな。
「で? 条件てなんの話? 昨夜私は全然事情知らないまま巻き込まれたんだけど」
パートさんに怖いと言われる笑顔でイケメン様を問えば、彼は眉間にシワを刻んでため息をつく。
本当に笑顔がない……私には今朝までと別人の様に思えるんだけど。
それはともかく、話さない限りはもう二度と口をきいてやらない。いくらお客さまでもこっちも許容範囲ってもんがある。
よくよく考えたら私が協力しないと会社の店潰すって脅し、立派な脅迫に当たらない? 犯罪だよ、犯罪! 警察にコネなんてないから揉み消されるかもしれないけど、あまりにひどければ……と決意しかけた時。イケメン様の口から漏れたのは。
「……アイツ」
と舌打ちだった。