ダブル王子さまにはご注意を!
執事の春日さんから飲み物を作って貰った香織は、コーヒーカップを手に優雅に足を組む。……美しいおみ足を。
ちなみに、今はまだ移動中の車内ですよ。それなのにミニバー並みの設備があるって……。
夏樹は香織と同じコーヒー。一樹は紅茶。私は……思わずビールを所望しましたが。香織に脛を蹴られ、涙目でミネラルウォーターを。ちびちび水を飲んでいるうちに、目的地に到着したらしい。車が地下駐車場に入っていく様子が見てとれた。
「そういや、記憶喪失って医者もダメだったってこと?」
「はい。脳神経外科や心理内科などそれこそ有名な専門医には何人も診ていただきましたし、催眠療法等様々なものを試しましたが、一向に成果は挙がらずに匙を投げられてしまいました。“自然に思い出すのを待つしかない”だそうです」
香織と夏樹の会話を耳にしながらも、なんとなく隣の一樹の様子が気になった。
出逢って1週間と経ってないからそう知ってる訳ではないけど、何だか今日の彼はずいぶんと寡黙だ。妙な格好はともかく、全体的に言動が少ない。知り合って間もない頃みたいに、ポンポン言い返すこともなく。 何だか寂しさを感じた。
「ま、ひとまず大丈夫そうね。一応信用したげる。今のところは……ね」
香織がそんなことを言ってる最中一樹のスマホに着信が入り、彼は車が駐車場に停まった途端に反対側のドアから「用事が出来た」とだけ告げて出ていった。