いきなり花嫁とか、ふざけんなです。
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(第三者目線)



トントントン



とある一室……執務室の扉を叩く者が一名。


柔らかい質の茶色と金の髪に、中性的な整った顔立ち。

その表情は僅かな微笑みを浮かべているが、何を考えているのかは分からない。


先程、ルルノリアと別れたばかりのハルクだ。


彼は、部屋の中の人物から返事が帰ってくるより先に、無遠慮に中に入っていった。


「失礼します、デューノ。」


にこり。

触れたら壊れてしまいそうな、儚い飴細工のような完璧な笑みを浮かべるハルク。


そんな彼を迎えたのは、相変わらずの無表情だった。


「……本当に失礼だと思うのなら、返事が聞こえてから入れ。」


しかも、機嫌が悪い。


エゼナの王、デューノだ。


しかしハルクは王の言葉には何も返さず、ただ少しおどけたように肩をすくめただけだった。


……いつものことだ。


「はかどっていますか?」


ハルクは、デューノの机に置かれた大量の書類をちらりと見て聞いた。


新しい国が出来て、まだ一年も経っていない。

鎖国状態のシルドレッドとは違い、他の国との貿易のあったラナン。

その関わりをなくさないためにも、やらなくてはいけないことは、山ほどある。


「あぁ。」


ハルクが入って来たため、一時的にペンを持つ左手を止めたデューノは、また動きを再開させながら、そう返事をした。

かなり適当に答えたに違いない。


が、それを気にすることなく、ハルクは話を続けた。


「言われた通り、あの娘に書庫の鍵を渡しましたよ。」

「そうか。」


顔を上げずに、デューノは答えた。

カリカリ、と紙にペンが走る音が光沢のある黒の家具で統一された部屋に響く。


「思っていたよりも、肝が据わっている娘ですね。」

「……。」

「泣いた様子も、怯えた様子もありませんでした。」

「あの娘なら、当然だろう。」


特に何とも思っていない、というのが丸わかりの声に、ハルクは少々感心した。

そのまま彼は、いつもの癖で顎に手をやりながら息を吐く。


「そうですね。彼女が、あのまま育ってよかった。」

「あのままかどうかは、まだ分からん。」

「……そうですね。もしも期待通りでなかったら……その時は斬りますか?」

「…………。」

「冗談です、睨まないで下さい。」


ふふふ、と全く笑えない冗談を微笑みながら言う、ハルク。

デューノはチッと小さく舌打ちをした。

それを、面白そうに見るハルクは、やはり性格が歪んでいるのだろう。


そのまま、続ける。


「まぁ、どんな結果になるにせよ、あの娘にはしばらくここにいて貰わなくてはなりません。」

「あぁ。」

「その間、ルル嬢を守らなくてはならないし、ルル嬢に守られて貰わなくてはなりません。」

「……簡単に守らせてくれるかどうかは、分からんがな。」

「そうですね。……でも、そのくらいの方がいいのかもしれません。ルル嬢が臆病であれば、彼女をここに連れてきたことの意味がありませんから。」


デューノは、黙って頷いた。


……そこで、会話が止まる。

この部屋を支配するのは、時計の針が時を刻む音、そしてデューノのペンの音のみだ。

そんな時間が、どれだけか流れた。


「…………。」


……と、いい加減、デューノは手を止めて顔を上げる。

勿論、その紅の瞳は何秒経ってもピクリとも動かない、ハルクを見た。


「……何だ。」

「いえ、本当にやる気があるのかと、疑問に思っていただけです。」


にこにこ。

そんな風に笑うハルクの顔は、何故か笑っているように見えない。


この男と何年も友をやっているデューノだが、やはりこの言葉には多少の憤りをおぼえた。


「……少なくとも、こんなところで油を売っている政務補佐よりかはあると思うが。」


お前も仕事が溜まっているだろう。

その言葉にも、ハルク……この国の政務補佐は、顔色など変えない。

そこらの年頃の少女が見れば、キャアキャアと黄色い奇声が上げそうな綺麗な笑顔のまま、答える。


「これも、仕事の内ですよ。」

「何がだ。」

「ルル嬢についてですが。」

「まだ何かあるのか。」


面倒臭い、という気持ちを隠す気もない声に、ハルクは微笑みという名の仮面をより深くする。

「早く落としてしまいなさい。」

「どこにだ。」

「……本気で言っていますか。」

「……そっちについてか。」

「まったく、貴方という奴は……。」


頭を抱えたくなる、とは正にこういうことを言うのだろう。

そんなことを思いながら、ハルクはその気持ちを無視して続けた。


「今、彼女の貴方への評価は底辺でしょう。後は、上げるだけです。簡単でしょう。早く上げる努力をして下さい。」

「……この数時間で、何をやれと。」

「少しはソルデを見習ったらどうですか。」

「俺に女に媚びる趣味はない。」

「知っていますよ。だから、努力して下さいと言っているのです。」

「………。」


デューノは、黙るしかなかった。

彼は、ハルクとソルデが『ルル』呼びをしていることや、彼女が髪型を変えたことに気がついていたが、それらについてかける言葉を知らないだけだ。

最初の時も、回りくどい言い方が嫌いで、単刀直入に「花嫁に迎える。」とか言ってしまったが、本当は怖がらせるつもりはなかった。

勿論、その努力の仕方も分からないわけで。


「…………。」

「大体、こういうことはソルデに任せるのが適任だと言ったでしょう。なのに、貴方は自分でやると言った。それなら、最後までやって下さい。」

「……分かっている。」


本当に分かっているのですかね、と小言を言いたそうなハルクを無視して、デューノは再び仕事の続きをやり始めた。




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