イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「突然ごめんね。さっきからずっとひとりでいるけど、誰か待ってるの?」



見上げた先にいたのは、顔全体にニコニコという擬音が聞こえて来そうなほどわかりやすく笑みを貼り付けた見知らぬ男性だった。

歳は私とそう変わらないくらいで、この人も仕事帰りなのかスーツ姿だ。思わず軽く身を引きながら、私は怪訝にその人物を見上げる。



「あの……?」

「ああ、いきなりで警戒しちゃった? 別に俺怪しい者ではないんだけどさ、すっごいかわいいコがさっきから待ちぼうけしてるなって思って、つい声かけちゃった」



そう言ってまたにっこり笑う男性。発言はともかく、たぶんなかなか甘いマスクと言われる部類に入るタイプなんじゃないだろうか。

けれど私は、そんな表面的なことに絆されたりしない。あまりに軽すぎる目の前の男性の言動に、私の身体は完全なる拒否反応を示した。



「……人を、待ってるんです。どうぞ、お気になさらず」



なんとか最低限の言葉をしぼり出し、テーブルへと視線を落とした。

綺麗に磨かれた木製のテーブルだけを映していた視界に、ギッと音をたてていきなり誰かの手が入り込んで来たから、驚いて肩がはねる。



「その相手に、すっぽかされたんでしょ? よかったら俺とごはんでも行かない?」



たぶん、わざとやさしく甘くした声が私を誘う。

テーブルにつかれた片手を凝視しながら、本格的に私はあせっていた。


どうしよう、意外としつこい。見た目は引く手あまたっぽいし、すんなり諦めてくれると思ったのに。

ああもう、誰か助けてください。私、こういうときの対応ほんと苦手なんです。ヘタレとかチキンとか言われようが無理なんです。

押し黙る私に、傍らの男性がさらに何か言いかけたそのとき。
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