イジワルな彼に今日も狙われているんです。
私もそれ以上言葉を続けなかったけれど、尾形さんが押し黙ったことを不思議に思ってそちらへと顔を向けた。

彼はなぜか、思いがけず私をじっと見下ろしていて。その眼差しに驚いたせいか、どくんと心臓がはねた。



「……っ尾形、さん?」

「うん、でもさ。やっぱり、俺がちゃんと約束通りの時間に行けてればああやって絡まれることもなかったかもしれないんだよな」



悪かったな、と。眉を下げて今まで見たことのないしおらしい顔をするから、きゅっと胸がしぼられた気がした。

この人、いつもはなんでそんなにってくらい自信に満ち溢れた堂々とした態度してるくせに。こんな顔も、するんだ。

一瞬だけぼうっとしてしまっていた私はそれでもすぐ我に返り、彼の言葉を否定するため威勢よく首を横に振った。



「だっ、大丈夫です。仕事なら仕方ないですし」

「おまえな。実際嫌な思いしたんだし、聞き分け良すぎるのも考えもんだぞ」

「えええ……そんなこと言われても」



私が情けない声でそうつぶやいたら、ふっと尾形さんが口元を緩めた。

そのまま私の頭を一度だけ軽く叩いて、前を向く。

またふたりの間に沈黙が落ちたけれど、今度はなぜか気にならなかった。髪に残る彼の手のひらのぬくもりが冷たい風にさらわれて完全に消えたその瞬間、不意に思い出す。


そういえば……さっきのコーヒーショップで助けてくれたとき、尾形さん、私のこと名前で呼んでた。

きっとあれは、ただの同僚より親密に見せた方が効果的だと思ってわざとやったんだろうけど。彼にああやって呼ばれたのは初めてだったから、ちょっと……いやかなり、驚いてしまった。
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