イジワルな彼に今日も狙われているんです。
少し通りの裏を入ったところにある、赤い外観がかわいいスペインバル。

そこが今夜、尾形さんの案内してくれたお店だった。

細長い店内は木のあたたかみを感じさせる家具を使った内装で、照明のオレンジっぽい光が外気で冷えた身体をやさしく包んでくれる。

お肉を焼く香ばしい匂いが鼻腔をくすぐって、お店に足を踏み入れたとたん急におなかが空いてしまった。

どうやらこのお店、尾形さんのお友達がオススメしてくれたらしい。そのお友達によるオススメの理由っていうのが「ウェイターがイケメン!」だったらしいから、思わず笑ってしまったけど。



「アイツもなー、そろそろ落ち着けって言ってんだけどなあ」



そう言って苦笑する彼はちゃっかり予約をしてくれていたらしく、混んでいた店内でウェイターに名前を伝えたらすぐにテーブルへと通してくれた。

とりあえず飲み物を先に頼み、運ばれて来たグラスを合わせて乾杯する。



「あ、おいしい」

「だろ?」



こくん、と一口グラスの中身を飲んで思わず声を漏らせば、尾形さんが得意げに笑った。

私が持っているのは、尾形さんに選んでもらった白ワインだ。あまりワインは飲んだことないけどこれはすごく飲みやすい。ちょっとりんごっぽい、フレッシュな香りがする。

自らは赤ワインのグラスを片手にメニューを眺め、尾形さんがウェイターへあれやこれやと食べ物を注文した。

ほんと、手際いいよなあ。今まで数回ごはんを共にしたうえで彼のセンスには全幅の信頼を寄せているので、私はあまり口を出さないでいる。



「私、今までずっとなんとなく流してたんですけど。タパスとピンチョスの違いって何なんですか?」

「あー、たしかタパスは小皿に乗ったつまみのことで、ピンチョスは──」



私の質問に、海老のアヒージョをつつきながらすらすらと答える尾形さん。

イケメンで、仕事ができて、こんなおしゃれなお店にさらっと連れて来てくれるスマートさも持ち合わせていて。……なんなんだろうこの人、苦手なこととかないのかな?
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