イジワルな彼に今日も狙われているんです。
尾形さんは、不思議な人。部署だって違うし同性でもないし年の差だってあるのに、人見知りの私がかなり早い段階から打ち解けられたちょっと特殊な人。

たまに意地悪は言うけど、それでもこれまでのやり取りで根っこの部分はいい人だってことはもうちゃんとわかってる。


……だから。

だから私はこんなふうに尾形さんのことを知るたび、余計なお世話かもしれないけど少しだけ、もどかしくなる。

失恋同盟、とか。そんなさみしい、しかも私なんかと同じ場所なんて、尾形さんには似合わない。

この人のことを本気ですきになる女性は、きっとたくさんいるはずで。たぶん、尾形さんの方から少しでも手を伸ばせば、簡単に幸せは掴めるはずで。


誰か早く──早くこの人を、幸せにしてくれたらいいのに。



「……尾形さん、知ってますか? 失恋の痛手にいっちばん有効なのは、新しい恋だそうですよ」



まったく他意はありませんという顔をして。あくまで軽い気持ちで口にしたような体で、私は小さく笑いながら尾形さんに視線を向けた。

彼は一瞬きょとんとした顔を見せた後、猫のように目を細めて頬杖をつく。



「はっ。そんなありふれたセリフ、おまえには言われたくねぇな」

「昨夜見たドラマの受け売りです。……“私には”、ってどういうことですか」

「まんまブーメランだろ。木下こそ、誘っては撃沈してる男共にちょっとは興味持ってみろよ」

「や、興味っていうか……わ、私のことは、いいんですよ!」



言いきってからぐいっとグラスの中身をあおる。ワインのフルーティな香りが鼻を抜けて、それと同時に少しだけ体温が上がった気がした。

撃沈、なんて言い方意地悪だ。だけどそういえば私は、こうして尾形さんからの誘いには乗ってるわけで。そう考えると今まで頭を下げてお誘いを断った人たちに、すごく悪いことをしてしまった気がしてくる。
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