イジワルな彼に今日も狙われているんです。
えっと、でも、声かけてくれる人が大抵別部署の、よく知らない人だったりするんだもん。それでいきなりふたりきりで食事って言われても、戸惑うの普通じゃない?

けど尾形さんの場合は、話しやすい人だってもう知ってるし。それに尾形さんには私に対して下心っていうか、そんなものも一切ないってわかってるもん。


……だって。



『俺も、ちょうど4ヵ月くらい前に振られた。付き合ってたとかじゃなく、片思いしてたヤツに』

『しかも俺なんて、相手幼なじみだからな? ガキの頃からこじらせてた年季入った片思い、まっさかこのタイミングで終了するとは思わなかったわー』



本人の口から、はっきり教えてもらったことはないけど──たぶんこの人の中にはまだ、私と同じ時期に振られたっていう幼なじみの女性の存在が、大きく残ってるから。

私に声をかけてくれるのは、別に“私”に興味があるからじゃない。ただの仲間意識だって、明確にわかっているから。



『あーあ、同じ時期に揃って失恋とか残念だな俺ら。せっかくだしふたりで失恋同盟でも組むか』

『……仕方ないですね。失恋同盟上級代表の座は尾形さんに譲って差し上げます』



私とこの人は、似たもの同士だ。

精一杯虚勢を張りながら、失恋の痛みを隠して。

もう過去になってしまった恋の記憶に囚われたまま、どこへも進めずにいる。


そして私は、はたと思い出した。



「そうだ、尾形さん。あの、今日の物品庫の人って、どの部署の何さんですか?」

「あ? そんなん聞いてどうすんだよ」



『物品庫の人』という表現だけでも、彼には『今日会社の物品庫であなたに告白した女の人』のことだとちゃんと伝わったらしい。アヒージョのオイルをたっぷり浸したバゲットにかぶりつきながら、尾形さんが怪訝な顔をする。

ちなみに、先ほどようやく1杯目のワインを空けた私とは違って彼の目の前にあるグラスはとっくに2杯目。それだってもうなくなりそうなんだから、このペースじゃボトルを注文した方がコスパ的にもいいような……。
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