イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「そういえば、木下って派遣社員なんだっけ」

「そうですよ。今は2年目です」

「ふーん……」



今度こそトルティージャを口におさめ、彼は鼻を鳴らした。

というか、この人よく食べるなあ。それでこのスタイルの良さ、うらやましい。

たしか学生時代ずっとサッカー部で、今も仕事の後とかお休みの日にフットサルをやってるって言ってたっけ。そっかあ、食べた分ちゃんと運動してるんだな……私には無理だ……。



「なんで、派遣やってんの? 正社員目指さねーの?」

「えっ」



完全に油断していたところへの思わぬ質問に、ぎくりと身体を強ばらせた。

尾形さんは、小首をかしげて私の返答を待っている。そのまっすぐな視線から、逃げるように目を逸らす私。

えっと、どうしよう。なんて答えれば──……。



「あー、悪い悪い! 話しにくいこと訊いたな」

「へ、」

「いーよ別に、無理に答えようとしなくても!」



押し黙る私に何か感じとったのか、尾形さんはぱふぱふと私の頭を叩きつつ殊更明るく言った。

そのセリフにほっとしたのも束の間、輝くような笑顔のまま彼が続ける。



「どーせトロいおまえのことだから、熾烈な就職戦争に完全に乗り損ねたんだろ! 残念なヤツ!」

「……へ?」

「まあ、これで『実は私とある大企業の社長令嬢で、そのうち親の決めた相手と結婚しなきゃいけないから他所の会社に正社員で勤めるの認めてもらえないんです~』とかファンタジーな理由だったら爆笑もんだけどな! わはは!」

「………」

「けど別に派遣だからって悪いとは思わねぇよ! 派遣っていろんな会社経験できるし、時間の融通もきくからプライベートと両立しやすいもんなー!」
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