イジワルな彼に今日も狙われているんです。
うん。尾形さん、結構酔ってるんだろうなあ。

そうだよなあ。気付いたら今この人が持ってるグラス、4杯目だしなあ。


一通り彼の話を黙って聞いていた私は、いつもよりテンションが高めなその人物に向かってにこりと静かに微笑んだ。



「尾形さんって、デリカシーないですよね」

「あ、それ、前にも木下に言われたっけな~。こう何度も言われるとか、よっぽど俺ひどいんだな~」

「ええ、ひどいです。私さっきので心をひどく抉られたので、このお店で1番高いワインをボトルで奢ってもらいますね」

「あの、すみませんでした木下さん……ちょっとばかり調子に乗りすぎました……」

「『ちょっと』?」

「すごく調子に乗りました!」



元気よく挙手しながら自分の発言を訂正するから、思わずぷっと吹き出す。

まさか私が年上の……しかも男の人と、こんなくだけたやり取りができるようになるなんて。少なくとも、尾形さんと話すようになった2ヶ月前までは、まったく想像もできなかった。

本当に、尾形さんは不思議な人。こうやって軽快な会話ができるのは、尾形さんとだけ。

私自身、自分にこんな一面があるなんて知らなかったのに。


一応抑えようとはしてるんだけど、口元にあてた手のひらからくすくすと笑いがもれてしまう。

ふと気付くと、テーブルを挟んだ向かい側にいる尾形さんも同じように笑っていた。


ああ、なんだかふわふわする。今こうしてるこの時間が楽しくて、まわりの喧騒が心地よくて、ごはんもお酒もおいしくて。

尾形さんのこと言えないな。私も、自分が思う以上に酔っちゃってるのかも。

あんまりお酒強くない自覚はあるから、気を付けてはいるんだけどなあ。
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