イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「もったいないな……」



私がデザートの最後のひとくちを口に入れたタイミングで、尾形さんがぽつりとつぶやく。

結局あれから私は1杯、尾形さんは2杯のワインをおかわりした。あまり顔色は変わっていないようだけど、やはりそれなりに酔っているのかどことなく彼の目が据わっているように見える。

そのつぶやきの意味がよくわからなくて、私は首をかしげた。



「? 尾形さん?」

「なんでだろうなあ……木下、こんなにいいコなのにな」



頬杖をつき、ぼんやりと私のことを見つめながら。

酔いのせいか少しかすれた低い声で、尾形さんがまるでひとりごとみたいにそんなことを言った。



「え、」



ぎし、と、反射的に身体が固まる。

わけがわからず動揺している私なんてお構いなしで、彼は続けた。



「こんなところで俺みたいなのと一緒にいるの、もったいないのにな……世の中うまくいかないもんだよなあ……」

「あ、の、尾形さん……?」

「俺はおまえに、ちゃんといい男とくっついてちゃんと幸せ掴んでもらいたいよ」



えっと、あの。

尾形さんが何の話をしてるのかは、なんとなくわかった。

わかった、けど……こんなの面と向かって今まで誰かに言われたことなんてなかったから、ものすごく恥ずかしくて一気に顔に血が巡る。

それに、『ちゃんと幸せに』なんて。ついさっき、自分が尾形さんに対して思ったことと同じことを言われたから、それにも驚いた。
< 32 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop