イジワルな彼に今日も狙われているんです。
なんとか気持ちを落ち着かせようとしている私の目の前で、尾形さんはスマホを操作している。

メールだったのかな。何気なくその様子を眺めていると、不意に彼がぐっと眉間にシワを寄せたのがわかった。

どことなく苦しそうで。でもその口元には、かすかな微笑みが浮かぶ。

そんな、初めて見る尾形さんの表情を目の当たりにした私は。自分の中に充満していた熱が、さあっと信じられない早さで冷えていくのを感じた。


……あ。

もしかして、今のは。


返信した様子もなく、尾形さんがジャケットのポケットにスマホをしまい込んだ。

堪えきれずに、私は思わず声をかける。



「メール、ですか? ……いいんですか? お返事しなくて」



私がそう言ってきたのが予想外だったのだろう。不意をつかれたような表情をした尾形さんは、それでも直後には何でもない素振りで笑みを浮かべた。



「ああ、別に? 友達が、くだらない内容送って来ただけだから」



そうですか、と返し、私はあっさり引き下がる。

こちらの反応に一瞬ほっとしたような顔をした尾形さんが、「そろそろ出るか」と言って椅子から立ち上がった。

つい先ほどふたりの間を包んだ不思議な空気は、もう微塵も感じられない。うなずいた私も、彼に倣って席を立つ。


……嘘、だった。

さっき尾形さんが言っていた『友達』という言葉は、たぶん、嘘だった。

ほんの少しの変化だったけれど。それでも私が見つけたあの表情は、『友達』に向けられたものじゃない。

あんな、眩しいものでも見るみたいな表情は。たぶん──……。
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