イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「木下、電車で帰る?」



お店を出るなり、白い息を吐きながら尾形さんがこちらを振り返った。

私は首を縦に動かして肯定する。



「はい」

「じゃ、送る」



あたりまえのように尾形さんが言ったけれど、私は思わず笑って彼を見上げた。



「ひとりで大丈夫ですよ。尾形さん、タクシーで帰るんでしょう? ここから駅近いし、私のことはご心配なさらず」



ずっと座っていた椅子から立ち上がってわかったんだけど、やっぱり今夜は尾形さんにしては珍しく酔ってしまっていたらしく、なんだか足取りに力がなかったのだ。

だから今夜は、さっさとタクシー使って帰ってくださいと念を押したのに。そのとき彼はレジでお会計をしながら、渋い顔でうなずいていた。

ちなみに私たちが一緒に食事をするときは、いつも尾形さんが少し多めにお金を出してくれる。

毎度恐縮しちゃう私に、男の自分の方がたくさん飲み食いするからあたりまえだろって、尾形さんは言うのだ。なんなら全部払ってくれそうな勢いだけど、そこは私がなんとか無理やりお金を渡している。


私は自分の首にぐるぐるとマフラーを巻き付けながら、まるで小さい子に言い聞かせるみたいにぴっと人差し指を立てて見せた。



「尾形さん、かなり酔ってらっしゃるみたいなので。駅に着く前に道端で爆睡でもされたら、それこそ迷惑です」

「……そうかい」



苦虫を噛み潰したような表情でそれでも一応納得してくれたらしい尾形さんに、私はついふふふと笑った。

酔ってる尾形さん、いつもより素直でちょっとかわいいかも。普段もこのくらいかわいげがあるといいのに。
< 35 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop