イジワルな彼に今日も狙われているんです。
ほ、本当に、ダッシュで逃げてしまった……!

でもたぶん、尾形さんは気付いてないはず。それならこれは、会ったことにはならない。ノーカン、うん、ノーカンだ。

とりあえずお昼休みが終わるギリギリまでここにいて、こっそりマーケティング部に戻ろう。た、たぶん尾形さん、そのうちいなくなってくれるはず……。


というかほんと、どうして尾形さんは10階に? なんか誰かを待ってた風だったから、付き添いとか?

ああそういえば、今思い出したけど前に尾形さんに告白してた女の人、この階で働いてるんだっけ。探して謝るの、結局できてないや……やっぱり私って、ダメダメだ……。


そんなことを考えていたら不意にドアが開かれる音がしたから、びくっと肩をはねさせた。

ばくばくと心臓が暴れる。テーブルの下で身体を縮こませている私の耳に、その足音はゆっくりと届いた。



「……ッ、」



リノリウムの床を踏みしめる音が、着実に私のもとへと近付いて来ている。

凍りついたように視線を固定していた私の視界に、スーツの足元と革靴が姿を現した。

スーツの色は、ついさっきも見たダークグレー。

立ち止まった足の持ち主がゆったりとその場にしゃがみ込み、とうとう私たちは対面を果たす。



「……おまえな。猫じゃないんだから、こんなところに隠れてんじゃねぇよ」



私を見つけた尾形さんは、そう言って困ったように笑った。

彼のその微笑みを見た瞬間、なぜかきゅっと胸がしめつけられる。


どうしよう。私今、どうしようもなく泣きそうだ。

視線を合わせられずうろうろと目を泳がせながら、なんとか言葉を紡ぐ。
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