イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「な、なんで私が、ここにいるって、」

「急に方向転換したしっぽが見えたから追いかけて来た。おまえがこの階にいるって情報は、佐久真さんから聞いたけど」



しっぽ? と首をかしげかけたけど、すぐに気付く。

たぶん、今日の私のポニーテールのことだろう。予想外な部分が自分の首を絞めたと知ってそっとくちびるを噛む。


佐久真さんとはさっき一緒に社食でランチをして、エレベーターで別れたはずだ。

その佐久真さんと、話をしたってことは……もしかして尾形さん、わざわざマーケティング部まで行ったのだろうか。

……まさか、私に会うために?



「こんなところまで押しかけて悪い。けど、どうしても木下と話したくて」



一瞬、心を読まれたかと思うほどのタイミングの良さだ。それはない、とたった今考えを打ち消したばかりのことを、尾形さんがはからずも肯定した。

とっさに反応できず、テーブルの下で縮こまったまま呆然と見つめれば、どうしてか彼は苦しげに眉を寄せる。



「……俺の顔なんか、もう見たくないかもしれないけど。一度ゆっくり……話が、したくて」



私から視線を外し、彼がくしゃりと自分の前髪を掴んだ。

いつも堂々としている尾形さんがこんな歯切れ悪く話すところ、初めて見た。私だってヒトのことは言えないけど、さっきから全然視線も合わないし。


……尾形さんの顔を、もう見たくないだなんて。そんなこと、あるわけないのに。

それでも、その言葉を正直に伝えることはできない。押し黙る私を、尾形さんがちらりとうかがうように見遣ってきた。
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