イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「木下、そういうカッコも似合うな」



係員さんから案内図を受け取りつつさらりと言われたセリフに、ぼっと顔が熱くなった。

「あ、ありがとうございます」となんとか言葉を返し、私は熱を持つ両頬に冷えた手のひらを押しつける。


服装を褒められたことと、それから初めて見る尾形さんの私服姿に今さらながらドキドキしてしまう。

待ち合わせが遊園地の前だったからきっと中にも入るんだろうなと考え、スキニーデニムを履いて通勤服より動きやすいものにしたんだけど……尾形さんも、今日は同じくカジュアルな感じだ。

仕事で着ているものとは違う、キャメル色のダッフルコートに、ネイビーのケーブルニット。

それから細身の黒いパンツと、いつもの革靴とは違ってスニーカーを履いていた。


……かっこいい。どうしよう私、こんな人と一緒に遊園地まわるなんて、心臓耐えられる気がしない。



「とりあえず、木下は何か乗りたいのあるか? 俺はなんでもイケるけど」



立ち止まって私にも見えるように案内図を広げながら、尾形さんは言った。

今日は、話があるってことだったけど……普通に遊園地も楽しむ気満々らしいその様子に、私は少しだけ肩の力を抜いた。


せっかく、尾形さんとこんなところに来れたんだもん。

びくびくしてないで楽しまなきゃ損、だよね。


尾形さんに会ってから今日初めて笑みを浮かべた私は、彼が持つ園内案内図を横から覗き込む。



「えーっとですねー……」

「あ、ちなみにジェットコースターとお化け屋敷は引きずってでも連れて行くから覚悟しとけよ」

「えええなんで強制なんですか?! 両方私が苦手なやつ……!!」



絶対そのふたつは避けようと思っていたのに、まさかの展開!

思わず尾形さんを見上げて抗議すれば、そんな私ににやりと嗜虐的な笑みを見せてくる。



「うるせぇな、単に俺は好きだからだよ」

「鬼……! 悪魔……!」

「はっはっは、なんとでも言え」



愉快そうに笑って、尾形さんが歩き出す。

……こんな悪魔をすきになってしまった私、やっぱり早まったかも。

そんなことを考えながら、それでも彼とこうして一緒にいられることはどうにもうれしくて。

ままならない乙女心というやつに、つい苦笑い。私は先を歩くその背中を駆け足で追いかけるのだった。
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