イジワルな彼に今日も狙われているんです。
わからない。私は尾形さんの考えていることが、全然わからない。

今はもうとっくに夕方と言える時間帯だけど、会ってからここまでの彼は、単純に私とまわる遊園地を楽しんでいる様子だった。

一度ゆっくり話がしたいからという理由で、尾形さんは今日私をここに誘ったはずだ。

その話というのは、いつするんだろう。どんな、内容なんだろう。

……その、話をした後。私と尾形さんの関係は、一体どうなってしまうんだろう。



「あー、早いな。もうこんな時間なのか」



尾形さんが腕時計を確認して言った。今左手にあるその時計だって、普段会社でつけているものとは違うものだ。

この腕時計を見るのも、今日が、最初で最後かもしれない。

そう考えただけで、じわりと涙が浮かびそうになる。とっさに深呼吸して泣き出しそうな衝動をやり過ごす私に、尾形さんが顔を向けた。



「冷えて来たし、次ので最後にするか。木下、観覧車は乗れる?」

「え、あ、はい。乗れます」



ジェットコースターとお化け屋敷は、こっちが嫌だと言っても問答無用で連れて行かれたのに。今になってわざわざ訊ねられたことに若干驚きつつも、答えた。

私の返事を聞いて、尾形さんは軽く微笑みながらうなずく。



「よかった。じゃ、行くか」

「……はい」



観覧車の乗り場がある方へと足を進める尾形さんの斜め後ろを、おとなしくついて行く。

ひたすらに前を見据える、こっそり盗み見たその横顔が、なんだかとても真剣な表情に思えたから。私はいよいよ訪れる運命の時を悟って、そっとくちびるを噛みしめた。
< 83 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop