イジワルな彼に今日も狙われているんです。
コツコツと、尾形さんの長い指先がプラスチックの窓をつついた。



「アイツら、付き合う前にこれ乗ったんだって」

「え?」

「で、どういう気持ちになるのかなって思って、木下に今日ここに付き合ってもらった。悪かったな」



そう言ってこちらを向いた尾形さんが笑うから、私はきゅうっと胸がしめつけられる。

切なくて苦しいこの気持ちは、私が、この人のことをすきだという紛れもない証拠。


この感情が伝わってしまわないよう、わざと視線を床に落としてくちびるをとがらせる。



「……尾形さんは、ドMなんですか?」

「ははっ。木下の口から、そんな単語が出てくると思わなかった」

「普通に、使うことありますよ。どんなイメージ持たれてるかは知りませんが、私そんなにおキレイでお上品な人間じゃないです」

「そうかねぇ。俺から見れば、木下は相当キレイな人間だと思うけど」



やわらかく目元を細めながらそんなことを言う尾形さんに、私の体温は簡単に上昇してしまう。

……ほんとにもう、やめて欲しい。こんな、勘違いしそうになるようなこと、言わないで欲しい。

どうせ私のことなんて、ただの『境遇が似た会社の後輩』くらいにしか思ってないくせに。


ひざの上で握った両手に自然と力がこもった。尾形さんのセリフになんて返していいのかもわからずに、私はひたすらうつむいたまま目を泳がせる。

そんな私のことを、なぜか尾形さんはじっと見つめているようだった。

それに気付いているから尚更顔を上げられず、一体どうしたらいいのか困り果てていると。
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